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執筆者の写真伊藤芳博

「黒い雨」訴訟に思う

 8月12日、広島市と県は国とともに控訴したというニュースが流れた。少しは県と市の対応に期待してはいたが、「やはりそうか…」の対応だ。

 それはそれとして、私には加藤厚生労働大臣の会見内容がとても気になった。一つは地裁判決が「十分な科学的知見に基づいたとは言えない」と批判した点。もう一つは今後について「蓄積されてきたデータの最大限の活用など最新の科学的技術を用い、可能なかぎりの検証を行う」と述べている点。どちらも未だに「科学」万能主義から抜け出せていないコメントだからだ。「科学」に全面的な信頼を置くことができないことは、近いところでは東日本の原発、津波事故が示している。「科学」はそんなに正しく、善なるものであるのか。

 大臣が言うように、もしも「十分な科学的知見に基づい」ていないとしても、そうではない「人間的」「人道的」判断の方が正しいことだってある。そもそも「科学」的な根拠がないということは、現在の科学では証明できないということであって、だから誤りであるということにはならないはずだ。地裁は「科学」的根拠よりも依って立つべき上位の根拠から判断したのだろう。「科学」を錦の御旗として振り回すことから脱却しなければならない。

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