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白い魚と赤い魚
                                         岬 多可子


   そう大きくはない箱形の水槽に
   混ぜてはいけない
   白い魚と赤い魚でした

   ふるえながら立ち並ぶ
   卓上のほそいグラスを
   なでたおしていく 粗忽でうつくしい袖口

   白い魚の 白くて長い
   尾びれ背びれも 胸びれも
   すべて そういうものでしたから
   たえまなく せわしなく ひるがえり
   身の丈の二倍も三倍も 裾ひいて

   とりわけ
   ゆきすぎ ふりむき
   また とってかえしてくるようなとき

   その ひれひれ ひらひらに
   たえず ふれられ からまれ
   まきこまれ
   赤い魚は だまったまま
   いるしかなかった

   長い 裾も袖も ほんとうはね
   のびていっては ちぎれていく
   じいしきの 端々なの

   じぶんからいちばん離れて
   もう 透けるように 遠く
   ちりちりと破れては 水に溶け散っていく

   そして そんな裂々が
   底近く いつも眠るようにいた 赤い魚を
   ある未明
   浮かびあがらせた



 

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